THE ART OF MASAE UEZUMI
上住雅恵の絵画は身近な都市の景観を新しい光の中で表現している。画家の生み出すイコンのような絵画はそれぞれひとつの主題を捉えている。個々の絵画は組み合わされることで、より大きなモジュールによる都会のスクリーンを構成する。彼女の描く個々の建築材料(煉瓦、木材、窓ガラス・・・)から建築物が構成されるように、組み合わされた絵画は、画家の内面を具現化する、より大きな構造物を生み出す。彼女の描くドアや窓や自然の断片は、非人間的な都市空間に対する人間的な優しい観察といえよう。
人は彼女の建物を熟視し、覗き込み、かつそこから外部を見るのであるが、それはまことに興味深い風景である。開いた窓もあれば閉じられたものもある。画家は自身の心のスナップのように、見慣れた街をふと方向感覚を失うようなものとして建築物を再構築した。彼女のリズミカルな形と色の使い方は、叙情的な光景に貢献する。これらのシーンが純粋には現実でないことを強調するために、画家はこれらをモノクロマチックに描き、さらに心理的な側面から絵画を統合したのである。
上住の作品は疲れた都会の眼にとって安らぎである。人は家から出たとき、世界はいかに新鮮で活力あるものかを思い出す。画家は我々の見慣れた世界を取り上げ、それを熟慮と驚異の場に変革する。我々は、たった今まで常に目の前に形態と様式として存在しつづけていた「街」を再発見する。上住の作品は、日常接している世界を初心にかえって見る必要があることを、我々に優しく思い起こさせるのである。
2000年1月
Fred Bendheim
"The Lancet"のアートライター&アーチスト