MASAE UEZUMI

上住雅恵は、一つの作品の中に同時性と連続性の両者を介在させながら、みずからの経験を多様に表現することに長けた画家である。日本から定期的に米国を訪れ、自己の作品を発表しているこの画家は、ニューヨーク、フィラデルフィア、そして最近ではサンタ・フェ(ニュー・メキシコ州)という三都市の住居や戸口、そしてその環境の鋭い観察者である。これらの場所は彼女の描く思慮深く優雅な絵画の出発点となってきた。米国東部または西部の街に見られるエントランス、壁、屋根、街路は、これら建築物の身近な要素を介して生活を解釈する作家の世界に我々を引き込んでゆく。

彼女はこの十年で、家や街路を描いた小サイズの油彩画を集めて配置することによって壁面に一つの作品を構成する、ということで知られるようになった。そうすることによりその作品は、別々にも同時にも見ることのできる、ひとつの街、路、あるいはさらに広大な景観へとなる。その色と線の使い方はまさに彼女独自のものである。最近の作品、サンタ・フェのシリーズは特に、輝くようなイエローとオークルのウェーブがブルーとグリーンのシルエットのラインによって強調される非凡なものである。我々は、空想と郷愁をあまりに難なくかきたてられるために、子供の頃によく聞いた童話の中に、または長い間忘れていた、しかしまぶしい世界のなかに、自分がいるのではないかと思ってしまうほどである。その画は明晰かつ率直であり、一方では暖かみと優しさを備え、見る人に主張し、また元気を与える。

彼女の描く線の力強さは、主題を展開するその方法にある。作品はよく考案、構想、構成されている。従って、一見何気なく語られる物語のように見えるものも、実を明かせば、色彩、形、主題、空間を精力的に調整した結果なのである。彼女の色彩は、透明な油彩が何層にも重ねられた後でも(何層にも重ねられた透明な油彩を通しても)、変わらずに輝いている。簡素化された形態の使用は彼女の描画センスに基づくものであり、それに続くすべてのものの基盤となっている。画家は見事にその内面とその表現方法を統合している。内面と形態とは分ち難いものとなっているのである。

上住雅恵は、身近な生活に深く興味を抱きながら、自身の経験以外のところであたかもそれらが周囲に投影されたかのように作品を生み出す画家である。現実とは心で見るものである。そしてそれは必ずしも外見に依存するものではない。彼女の絵画はそういったことを我々に思い起こさせ、また、万物は生活が支えているということを示唆している。彼女の絵は、何でもない一瞬に積極的な手を差し伸べる。彼女の作品は変容的で空想的で教育的である。上住雅恵の絵画はいつのまにか我々のものとなった物語をずっと凝視させているのである。

2004年2月

Willo Doe
(Willo Doeはニューヨークを中心に活躍する美術評論家・随筆家)